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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)2966号 判決 1959年7月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松本善明の上告趣意は別紙書面記載のとおりである。

論旨第一点について。

原判決は、被告人の単独犯による覚せい剤不法所持の訴因を肯定した第一審判決を事実を誤認したものとして破棄し、訴因変更の手続を経ることなく、君島マス子との共同正犯を認定したのであるが、原判決の認定は、被告人は君島マス子と共同して判示の日時、判示の場所において本件覚せい剤を不法に所持したというのであり、同一の覚せい剤所持の事実について被告人の単独所持を、共犯者との共同所持に変更したものに過ぎないことは原判決の説示するところによって明らかであって、そのことによって被告人に不当な不意打を加え、その防御権の行使に不利益を与えるおそれはない(被告人の刑事責任を増大させるわけでもなく、またその防御方法を基本的に立て直す必要があるわけでもない)のであるから、本件の場合、訴因変更の手続を必要としないとした原判示は結局正当である。論旨引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。

同第二点について。

所論は原判決が引用の大阪高等裁判所の判例に違反すると主張する。しかし、原判決が被告人の単独犯による覚せい剤不法所持の起訴に対し、訴因変更の手続を経ることなく、君島マス子との実行共同正犯の事実を認定したことが、本件の審理経過にかんがみ被告人の防御に実質的な不利益を生ずるものでないとしたことは、当裁判所の諸判例(昭和二六年(あ)第七八号同年六月一五日第二小法廷判決、昭和二七年(あ)第二二三三号同二八年一一月一〇日第三小法廷判決、昭和二六年(あ)第二九八七号同二九年一月二一日第一小法廷判決)の趣旨に照して正当であり、引用の大阪高等裁判所の判例は当裁判所の右諸判例の趣旨に抵触する限度において変更せられたものと解すべきである。従って右判例は刑訴四〇五条三号の判例に当らないから、右判例違反の主張も採るをえない。

同第三点、第四点について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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